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戦争をウクライーナで終わらせる平和作りの人はいずこに [ロシア/ウクライナ]

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PEARLS And IRRITATIONS John Menadue’s Public Policy Journal より
キショア・マーブバニ
元国連安保理議長/元シンガポール国連大使
Where are the peacemakers to end the war in Ukraine?
Apr 18, 2022

要旨:

かつては、ネルソン・マンデラとか
デズモンド・ツツのような人もいたのに。

我々はこの戦争を予言できたのか?予防できたのか?
一言で答えるなら「イエス」である。


Kishore Mahbuban

地政学においては、道義を問うと同時に、
冷徹に分析もせねばならぬ。
その冷徹な論理を無視はできない。

西側の少なからぬ人々がこの災難を正しく予言していた。

20世紀アメリカの戦略思想の巨人ジョージ・ケナン。
かの「封じ込め戦略」の生みの親。
最終的にソビエトの崩壊につながった。
ケナンが亡くなったのは2005年3月17日。

2022年2月21日、ニューヨーク・タイムズがケナンを引用した。
旧ソビエトの地域へNATOが拡大することの影響を聞かれ、
こう答えたのだ。

「それは新たな冷戦の始まりだと思う。
ロシアは徐々に反発して政策にも影響してくるだろう。
悲劇的な間違いだと思う。まったく道理のない話だ。
他国の脅威となる国など存在していなかった。
NATOの拡大で、この国の建国の父たちもあの世で
さぞかし心穏やかならぬことだろう」。

ケナンの明確な警告にもかかわらず、
NATOが拡大を続けたのはなぜか?
1997年12月1日、オーエン・ハリスが、
『ナショナル・インタレスト』に書いた。
なぜNATOの拡大は賢明なことではないか、
なぜそれが起きているか、
最初の2つの理由はこうだ。
「ポーランド系を始めとする
 中欧・東欧系のアメリカ人選挙民の票の力」
そして「NATOとそこに巣食う巨大な利権ーー
 専門職、企業、コンサルタント等々が
 NATO存続を正当化する新たな存在理由を必要としたため」。

ケナンはハリスの主張にさっそく賛同した。
自分が言っていたこと、あるいは言いたいと思っていたことが、
ここまで見事に他の人によって言い表されようとは
思いもよらなかった、と。

NATOの拡大について特筆すべきは、
アメリカの少なからぬ人々が、リベラル派、保守派を問わず、
反対していたということ。ポール・ニッツェ、ジェイムズ・シュレシンジャー、
フレッド・イクレ、,ジョン・ミアシャイマー、ジャック・マトロック、
ウイリアム・ペリー、スティーヴン・コーエン、ビル・バーンズ、
ヴラディミール・ポズナー、ボブ・ゲイツ、ロバート・マクナマラ、
ビル・ブラッドレー、ゲリー・ハート、パット・ブキャナン、
ジェフリー・サックス・フィオーナ・ヒルーーみんな反対だった。

健在する最も偉大なアメリカの戦略思想家は
ヘンリー・キッシンジャーである。
彼はNATOの東方拡大に反対はしなかった。
しかしロシア人のウクライナ人に対する特別な思いを指摘した。
ワシントン・ポストに寄せた2014年の記事でこう言っている
「西側は、ロシアにとってウクライナが
ただの外国ではあり得ないことを理解しなくてはならない。
ロシアの歴史はキエフ大公国と呼ばれるものから始まった。
ロシアの宗教はそこから広がった。
ウクライナは何世紀にもわたってロシアの一部であり、
その前はそれぞれの歴史が絡まり合っていた。
ロシアの自由にとって最も重要な戦いのいくつかは、
1709年のポルタヴァの戦いに始まって、
ウクライナの土地で戦われたものである」。

キッシンジャーは妥協的解決策を提案した。
一方では「ウクライナはEUを含めて経済や政治の連携の枠組みを
自由に選ぶ権利を持つべきである」とし、
一方では(2014年に)「ウクライナはNATOに加盟すべきではない。
私の立場は7年前この問題が持ち上がった時と変わらない」。

ウクライナの真の悲劇は、
当時のオバマ大統領(ノーベル平和賞受賞者)が
キッシンジャーの忠告に耳を傾けていれば、
戦争の回避も可能だったのに
そうしなかったということである。

キッシンジャーが強調したのは、
ウクライナが自らの政治システムも地域的な枠組みも
自由に選べるということだった。
ウクライナがロシアの侵攻にここまで強硬に抵抗するとは
予期されていなかった。いかにEU加盟の希望が強いかということ。
そして彼らにはその自由が認められるべきである。
そしてウクライナはキッシンジャーが忠告したように
NATOに非加盟のまま「中立」たりえるのである。
過去にも「中立」国のEU加盟は認められている。
ウクライナはその先例に従うことができよう。

そのようなウィン・ウィンの解決策で、
戦争は未然に防げたはずだ。
事実、ロシアのウクライナ侵攻から2日後、
ゼレンスキー大統領は(侵攻後、真の英雄となったが)こう言った。

「我々はロシアを恐れない、ロシアと話し合いをすることを恐れない、
我々の国家に対する安全の保証であれ、何であれ、
話し合うことを恐れない、
中立という立場について話し合うことも恐れない」

中立について合意を得ることができていたら
戦争は回避することもできたのだ。

後世の歴史家たちは問うであろう。
なぜケナンやキッシンジャーのような
第一級の人々の極めて明確な警告が無視されたのか、
さらに、この紛争を防げたであろう並外れた平和の人
(平和を作る人/平和構築者)が
この時代にはいなかったのか、と。 

このことこそ、世界が今回のウクライナの出来事から学ぶべき
最も重要な教訓かもしれない。
戦争は、いつの時代でもそうだったが、悲劇的なものである。
平和は維持されなくてはならない。
そして世界は、地球的な平和構築者として浮上できる、
地球規模で尊敬を集める指導者群を生み出す必要がある。

かつては、ネルソン・マンデラとかコフィ・アナンとか
デズモンド・ツツといった人々がいて、
冷静で賢明な忠告をしてもらえた。
我々は今そのような著名な指導者を欠いているようだ。

危険は増すばかりである。
最近、アメリカのポンペオ前国務長官が
台湾でこう言った。
アメリカは「正しいこと、明らかなことをするために
必要なーーそして遅れに遅れたーー措置を、直ちにとるべきである。
すなわち中華民国(台湾)を自由な主権国家として
アメリカが承認するのだ」と。

地政学の天才ならずとも、彼の処方が
やがては台湾をめぐる戦争をひきおこすことは
容易に理解できるであろう。

彼の挑発的な提案は戦争につながりうるーー
ウクライナの戦争よりもさらに破壊的な戦争に
つながりうる。
ポンペオには世界中から非難の大合唱が沸き起こる
と思いたいところである。

これまでのところ彼の発言を非難する著名人の声は
皆無である。
まさにこれこそが我々の問題の核心なのである。
これまでに増して今いちばん必要とされる
地球規模の平和の人(平和を作る人)は
一体どこにいるのか?


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ウクライナ戦争を終わらせる平和作りの人はいずこに?
キショア・マーブバニ
元国連安保理議長/元シンガポール国連大使
Apr 18, 2022

戦争はいつの時代でもそうだが悲劇的なもの。
平和は維持されなくてはならない。

 かつては、地球的に尊敬されるネルソン・マンデラとかコフィ・アナン、デズモンド・ツツといった指導者もいた。彼らのうち少なからぬ人々は「賢人」評議会のようなものに属し、折にふれ、冷静で賢明な忠告を試みたものだ。明らかにいま我々はそのような抜きん出た指導者を欠いているようだ。

我々はこの戦争を予言できたのか?予防できたのか?
一言で答えるなら「イエス」である。

ロシアのウクライナ侵略は違法なものであり、国際社会により非難されるべきものであり、実際、非難されてきた。かつて国連大使をつとめた者として、私は国連憲章の原則を守る必要性を全面的に理解し支持もする。しかし、地政学において、我々はいつも二つのことを同時になさねばならない。道義を問うと同時に、分析もせねばならぬのである。地政学は残酷なゲームであり冷酷な力の論理に従わなくてはならないので、分析においては冷徹、無慈悲、石頭でなくてはならない。地政学の鉄則は、その冷徹な論理を無視する浅はかな者、おめでたい者は罰を受けるということである。

ということで、我々はウクライナにおけるこの戦争を予言できたのか?予防できたのか?簡単に答えれば「イエス」である。西側の著名な指導者の少なからぬ人々がこの災難を正しく予言していた。

20世紀にアメリカが輩出した最大の戦略思想家はジョージ・ケナンであろう。かの封じ込め戦略を生み出し、最終的にはそれによってソビエト連邦は打ち負かされた。ケナンが亡くなったのは2005年3月17日である。

2022年2月21日、ニューヨーク・タイムズの高名な記者トム・フリードマンは、1998年にジョージ・ケナンから直接聞いた言葉を再び長々と引用した。旧ソビエトの地域へNATOが拡大することの影響を聞かれたケナンは大いなる先見の明をもってこう答えたのだ「それは新たな冷戦の始まりだと思う。ロシアは徐々に反発して政策にも影響してくるだろう。それは悲劇的な間違いだと思う。まったく道理のない話だ。他国の脅威となる国は存在していなかった。NATOの拡大で、この国の建国の父たちもあの世でさぞかし心穏やかならぬことだろう」。

では、ジョージ・ケナンがはっきりと警告していたにもかかわらず、NATOが拡大を続けたのはなぜか?その問いへの正しい答えにも、ある意味、ジョージ・ケナンの太鼓判が押されていた。1997年12月1日、『ナショナル・インタレスト』誌の著名で伝説的な編集長オーエン・ハリスが、NATOの拡大がなぜ賢明なことではないかを説明し、なぜそれが起きているかの理由も列挙したのである。理由はいくつも掲げられたが、ここでは最初の2つだけを引用しよう。「ポーランド系を始めとする中欧・東欧系のアメリカ人選挙民の票の力」そして「NATOとそこに巣食う巨大な利権ーー専門職、企業、コンサルタント等々がNATOの存続を正当化する新たな存在理由を必要としたため」。

要するに、国内の票ほしさと一部の経済的利害が、地政学的な賢明さより優先したということだ。オーエン・ハリスがこの記事を投稿するや、その主張のすべてに賛同する投書をジョージ・ケナンが行った。ケナンはこう書いている。「その一部は驚きであった。というのも、あなたの主たる主張の一部は私自身が言っていたこと、あるいは言いたいと思っていたことでありながら、ここまで見事に他の人のペンによって言い表されようとは思いもよらなかったからである」。

NATOの拡大について特筆すべきは、アメリカの少なからぬ著名な思想家たちが、リベラル派、保守派も含め、反対していたということである。ポール・ニッツェ、ジェイムズ・シュレシンジャー、フレッド・イクレ、,ジョン・ミアシャイマー、ジャック・マトロック、ウイリアム・ペリー、スティーヴン・コーエン、ビル・バーンズ、ヴラディミール・ポズナー、ボブ・ゲイツ、ロバート・マクナマラ、ビル・ブラッドレー、ゲリー・ハート、パット・ブキャナン、ジェフリー・サックス・フィオーナ・ヒルーーみんな反対だった。

今のアメリカに健在する最も偉大な戦略思想家はヘンリー・キッシンジャーである。彼はNATOが東欧の旧ワルシャワ条約機構加盟国へ拡大することに反対はしなかった。歴史の良き学徒としてキッシンジャーは、ロシア人がウクライナ人に対して特別な見方をしていることを指摘した。ワシントン・ポストに寄せた2014年の記事でキッシンジャーはこう言っている「西側は、ロシアにとってウクライナがただの外国ではあり得ないことを理解しなくてはならない。ロシアの歴史はキエフ大公国と呼ばれるものから始まった。ロシアの宗教はそこから広がった。ウクライナは何世紀にもわたってロシアの一部であり、その前はそれぞれの歴史が絡まり合っていた。ロシアの自由にとって最も重要な戦いのいくつかは、1709年のポルタヴァの戦いに始まって、ウクライナの土地で戦われたものである」。

賢明な指導者としてキッシンジャーは理にかなった妥協的解決策を提案した。一方では「ウクライナは経済や政治の連携の枠組みを、EUを含め、自由に選ぶ権利を持つべきである」とし、一方では(2014年に)こう言っているのだ。「ウクライナはNATOに加盟すべきではない。私の立場は7年前この問題が持ち上がった時と変わらない」。

ウクライナの真の悲劇は、当時のアメリカ大統領であるバラク・オバマ(ノーベル平和賞受賞者)がヘンリー・キッシンジャーの忠告に耳を傾けていれば、ウクライナの戦争は回避も可能だったということである。キッシンジャー方式が強調したのは、ウクライナが自らの政治システムも地域的な連携の枠組みも自由に選べるということだった。実際、ウクライナがロシアの侵攻に抵抗するとは予期されていなかった。ところが今ここまで強硬に抵抗するということは、いかにEU加盟の希望が強いかということである。そして彼らにはその自由が認められるべきなのである。そしてウクライナはキッシンジャーが忠告したようにNATOに非加盟のまま、「中立」たりえるのである。過去にも「中立」国のEU加盟が認められている。ウクライナはその先例に従うことができよう。そのようなウィン・ウィンの解決策で、戦争は未然に防げたはずだ。事実、ロシアのウクライナ侵攻から2日後、ゼレンスキー大統領は(侵攻後、真の英雄となったが)こう言った。「我々はロシアを恐れない、ロシアと話し合いをすることを恐れない、我々の国家に対する安全の保証であれ、何であれ、話し合うことを恐れない、中立という立場について話し合うことも恐れない」。中立について合意を得ることができていたら、戦争は回避することもできたのだ。

将来、歴史家が今回のウクライナの出来事について書く際に必ず提起されるであろう大きな問い、それは、なぜケナンやキッシンジャーのような西側の第一級の指導者の極めて明確な警告があったにもかかわらず、それが無視されたのか、ということであろう。さらには、この紛争を防げたであろう並外れた平和の人(平和を作る人/平和構築者)を我々の世界がなぜ今日有していないのか、ということも問われるであろう。

このことこそ、世界が今回のウクライナの出来事から学ぶべき最も重要な教訓かもしれない。戦争は、いつの時代でもそうだったが、悲劇的なものである。平和は維持されなくてはならない。そして世界は地球的な平和構築者として浮上できる、地球規模で尊敬を集める指導者群を生み出す必要がある。

考えてみれば、かつては、世界的に尊敬を集めるネルソン・マンデラとかコフィ・アナンとかデズモンド・ツツといった指導者もいた。彼らのうち少なからぬ人々が「賢人」評議会のようなものに属し、折にふれ、冷静で賢明な忠告をしようとしたものだった。明らかに我々は今そのような著名な指導者を欠いているようだ。

そして危険は増すばかりである。最近、アメリカの前国務長官マイク・ポンペオが台湾でこう言った。アメリカは「正しいこと、明らかなことをするために必要なーーそして遅れに遅れたーー措置を、直ちにとるべきである。すなわち中華民国(台湾)をアメリカが自由な主権国家として承認するということである」と。地政学の天才ならずとも、彼の処方がやがては台湾をめぐる戦争をひきおこすことは理解できるであろう。

彼の挑発的な提案は戦争につながりうるーーウクライナの戦争よりもさらに破壊的になる可能性のある戦争につながりうるが故に、戦争を起こしかねないマイク・ポンペオの無謀なこの発言に対しては世界中から非難の大合唱が湧き起こると思いたいところである。

これまでのところ彼の発言を非難する著名人の声を私はまだこの地上で聞けずにいる。そしてまさにこここそが我々の地球規模の問題の核心なのである。これまでに増して今いちばん必要とされる地球規模の平和の人(平和を作る人)は一体どこにいるのか?

Where are the peacemakers to end the war in Ukraine?
By Kishore Mahbubani
Apr 18, 2022
( A repost from 22 March 2022)
https://johnmenadue.com/where-are-the-peacemakers-in-ukraine/

The views and opinions expressed in this article are those of the author(s) and do not necessarily reflect those of the Asia Research Institute, National University of Singapore



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