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君よ知るやシルク・サミット [歴史]

君よ知るやシルクの国
「第一回シルク・サミットin前橋」
不思議なえにし
官営の富岡製糸場の前に
藩営の前橋製糸所と
郷里熊本(と私の先祖たちーー知らなかった)

幾すじかの糸でつながっていた

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(大河ドラマ『花燃ゆ』でおなじみ旧群馬県庁)

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日本で最初に洋式器械製糸を行なったのは、世界遺産の官営冨岡製糸場にも先駆け、藩営の前橋製糸所であった。その責任者は川越藩士の速水堅曹。そして前橋藩士の娘達が工女として働いた。

群馬県前橋市の「生糸のまち前橋発信事業」は
いわば近代日本の「絹の道」再発掘の事業だ。
単に歴史を発掘し過去を追憶しようというのではない。
知られざる歴史の糸をほぐして広く世に知らしめよう、
今に生かそう、未来につなげよう、という「生糸」の物語である。
これぞまさしく地方創生。
中央から < そーせー >
と言われるまでもなく、地方の自治体の発案。すばらしい。

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(会場の群馬会館は県の旧議事堂 手前の石は繭の形をしている)

14088547_1742897222639736_5731793086672723225_n.jpg(山本龍 前橋市長)

前橋市のホームページによると「前橋から器械製糸の技術が伝わった全国各地の自治体や研究者と連携して調査研究」を行う、「藩営前橋製糸所の歴史的な役割を検証・顕彰するため」のもので、その一環として今回開催された「第1回シルク・サミットin前橋」だった。
http://www.gunlabo.net/event/event.shtml?id=1446

初日の焦点は、前橋から愛知県の豊橋に製糸の技術を伝え、豊橋が「蚕都」と呼ばれるまでに発展することに貢献した小渕しち。酒と博打におぼれ暴力を振るう夫から逃れての出奔、一緒に村を出てきてくれた愛する人の獄死、新しい製糸技術の開発の行き詰まり、経営の苦難ーーその波瀾万丈の物語は芝居『ひとすじの糸』にも描かれており、そのDVD短縮版が上映された。台本も、役者たちの演技も実に優れており、深く感動した。あとでそれが豊橋市の市民達による民衆劇だと知り、二度驚いた。

『ひとすじの糸』は、単にある時代の産業の開拓とか女性の起業といった枠にとどまる物語ではない。人の生き方、人を愛するとは、人を信じるとはどういうことなのか、などといった普遍的な問題を観る者に突きつける一級の芸術作品である。台本は極めて自然な日本語で書かれて完成度が高く、演じる役者たちも魂がこもっている。観衆の多くが泣いていた。私も激しく心揺さぶられてしまった。

小渕しちは貧しい農家に生まれたが、幼い時より母に教えられた生糸の坐繰り (*1) の腕前は抜群だった。しかし、夫からは暴力をふるわれ、流産を4度繰り返してやっと生まれた子供は失明…。晩年に産業功労者として大正天皇に拝謁したときの写真では、三十数名の男に交じって唯一の女性が小渕しち。その隣に座ったのが豊田佐吉であった。

https://www.amazon.co.jp/%E3%80%8C%E3%81%B2%E3…/…/4903988066

二日目は、藩営前橋製糸所に学びに来た熊本藩横井小楠の弟子・長野濬平(しゅんぺい)と、前橋から熊本に派遣された前橋藩士の娘大野ナミ、宇都宮に創業した大嶹商舎(石井製糸所)に光があてられた。

幕末の十傑の一人にも数えられる横井小楠、その弟子であった長野濬平(しゅんぺい)は、母親が、私の高祖父の父(ヒーヒーヒーじいさん)今井喜次郎安平の次女佐賀であることなどから、
私も関係者のはしくれとして今回サミットに参加させてもらったのだが、熊本における養蚕・製糸業の歴史も苦難に満ち満ちた歩みだったことを知った。

http://media.wix.com/…/1f1dfb_5017b2bbbc6f425cb0afdd883fa58…

台風、火災、西南の役、桑の病気、資金難…、幾多の試練に見舞われながらも乗り越え、蚕の飼育法や蚕種の改良に成功。後には熊本の生糸が全国の最優秀品とまで言われるようになったという。「サミット」ではテレビ熊本のドラマ『長野濬平 〜近代養蚕業の開祖』の冒頭部分も紹介された(*2)。
http://www.tku.co.jp/webland/dorama_nagano/story.html

パネリストの1人熊本県山鹿市の中嶋憲正市長(たまたま同姓)は山鹿で養蚕事業復興を推進しておられる。長野濬平『養蚕富国論』の現代版と言おうか、生産高日本一を目指す、夢のある素晴らしい事業だ。
http://www.bs-j.co.jp/hyakunen/41.html

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(パネル討論で熱っぽく語る山鹿の中嶋市長)

前橋から熊本に派遣された大野ナミも私の母方の先祖(高祖父の甥)今井喜源太に嫁いでいて、お墓も山鹿にある(その光専寺は山門に加藤清正が熊本城を築城したときの材木の余りを使い、今も建っているが、熊本城のほうは西南の役で焼失したはずだ)。二度と生まれ故郷には帰らぬとナミさん、なみなみならぬ覚悟だったと言うが、製糸の技術を伝えんと十八歳にして遠い異国の肥後に渡って来られ、いったいどのような思いをされていたのだろう。かかあ天下の上州から男尊女卑の九州へ? 苦労も多かったのではないだろうか。手がかりはあまり見つかっていない。子孫の消息も。

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長野濬平が江上家から迎えた婿養子・親蔵は冨岡製糸場の副所長になったというが、
何者かに襲われ殺されている。前橋製糸所のあと冨岡製糸場の所長になった速水堅曹も、幾度か刺客に襲われた。富岡製糸場には指南役のフランス人らが来ていたが、「生き血を吸われる、肉を食われる」と流言を放って外国人に反対する人たちもいたし、進歩的な製糸場のあり方に反対する勢力もいた。しかし長野親蔵を殺したのが実際どのような人たちであったかは今もって分かっていないようだ(*3)。


サミット二日目の午後は冨岡製糸場を見学。龍光寺にある長野親蔵のお墓にもお参りしてきた。
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*1: 坐繰り製糸:
高崎前橋経済新聞より.jpg
(写真:高崎前橋経済新聞)

器械製糸:
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(世界遺産 冨岡製糸場)

*2:ただ、このようなドラマでは方言がどうしても難しいようだ。尻上がりの薩摩弁風になっていてとても違和感を覚えた。九州弁というと何か幕末ドラマの大仰な薩摩弁もどきが定着していて(他の投稿では私自身それを真似て笑いをとろうとしているので言えた義理ではないのだが)、その影響力は絶大で、隣の肥後の言葉まで同じ流儀で真似られてしまうのだ。熊本弁はこんなにイントネーションはくねくねしない。もっと平板で尻下がり。それと方言を演じる役者は、何か間の抜けた話し方をすれば方言になるという誤解があるように思えてならない。一生懸命作られただろうに辛口になって申し訳ないのだが、『復讐するは我にあり』の古川泰龍師(玉名・生命山シュバイツアー寺)テレビ・ドラマ版などは、聞くに耐えなかった。昔の映画で『サンダカン八番娼館』の田中絹代は、とてもうまかったのを覚えている。

*3: 冨岡製糸場のガイドさんの説明では、年に正月とお盆に合計ほんの数日しか休めなかった当時の奉公人と違って、製糸場の女工さんは、週1日の休み、盆と正月に10日くらいずつ休みがあり、毎日お風呂に入り、1日8時間弱の労働。女工には教養も必要と説いた速水堅曹と違って、働きさえすればよいという古い考え方の人たちもいたのである。

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サミットの冒頭、前橋市の初代市長の子孫という真丘奈央さんが
熊本地震の被災者のためにとこの曲をお歌いになられた。
カッチーニのアヴェ・マリア





ここだけのおまけにグノーのアヴェ・マリアも
 


乗りかけた船でシューベルト



ビオラはプリムローズ           


    新しいところでポーランドのミハル・ロレンツ ↑

ギターとカウンターテナーのビチスラフ・カガンで再びカッツィーニ ↓

↓ 遠くに雷鳴 雨マリア

冨岡は龍光寺の墓地 暗雲垂れこめた雨上がりの墓参 雰囲気はこのアヴェ・マリアだった

夏雨や仏寺に響くアヴェ・マリア
なつさめやぶつじにひびくアヴェマリア




君よ知るや南の国

金柑の花咲き風の静やかに
渡るかの地へ共にゆかまし

 

なみさん
知っとんなはるですか
南の国
金柑の花の咲いて
枝もたわわに文旦のできて
風も優しかばい
桑の葉の揺れて
火の山のそびゆる国
そこにあなたとふたりで行こごたる
蚕ば育てて生糸ば繰って
仲むつまじゅう一緒に暮らして
かの地にそのまま骨ば埋めようと思うとたい

(原作:ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ、翻訳:森号外)



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