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次は日本だ アメリカの死刑廃止が見えてきた [刑事司法]

ジョージ・ケイン准教授の講演。日弁連シンポ。弁護士会館。2015年6月16日。

まず、自分は何ものか。なぜ日本に来たのか。

自分は30年、警察、法の執行の仕事に携わった。保護観察官をやり、警察のコミッショナー(本部長)を15年勤めた。さらにコネチカット州立ウエスタン・コネチカット大学で刑事司法を30年教えて来た。その間、死刑のことを考察。学術誌に論文を寄稿。国外の会議にも参加。内外の死刑に関わる問題に取り組んで来た。米国の56州の運動にも関わる。

自分の仕事が大好き。人助けが大好き。そのため日本に来ることにもなった。今回は2回目の来日。前回は201310月。その1年ほど前、ローマの会議で古川師に出会い、意気投合、今に至っている。

古川師からはさきほど福岡事件の話があったが、私がローマで初めてその話を聞いたときは、福岡事件そのものにも興味を覚えたが、家族ぐるみ、家族総出で運動をされているということに惹かれた。

福岡事件は、まさに注目すべき事件。そろっている。警察の不正。ウソ。自白の強要。

共犯者たちの自白を不自然なかたちで引き出していること。冤罪。そして死刑。

65年以上も前のことだが、決して古くない。同じ問題が今も続いているから。

では、どうすべきか。2012年にコネチカット州で私たちがしたことからまず話そう。死刑を廃止した。運動に私も関わっていた。ご存知の通りアメリカではこの8年で7つの州が死刑を廃止した。コネチカットは他の州と事情の少し違う点もあった。しかし、日本と状況は似ていると思う。

コネチカットの運動はアメリカのいわゆる草の根で始まった。死刑問題の主役も勢揃い。被害者家族も巻き込むことができた。死刑が被害者家族にとってまったく救いになっていないことを私たちは知った。全米で、コネチカットで、冤罪の被害に遭った人たちも巻き込んだ。有罪を覆し、自由の身となった元死刑囚の人々。弁護士会とも、私の属している警察関係の人々ともつながった。こうした運動体がまとまると、次は、議員たちを巻き込む番だった。議員は、運動のいちばん重要な部分でもある。

正直言って、最初に死刑廃止を考えてから実際に死刑を廃止するまで25年もかかった。しかし、その道のりの1日1日に意味があった。そのことは言っておきたい。というのも、日本における運動も、この部屋におられる皆さん1人1人が始めなくてはならないのだから。

コネチカットの話はこれくらいにして、アメリカ全般でいま起きていることを話そう。皆さんは『タイム』という雑誌をご存知だろうか。おそらくアメリカで、そして世界で、もっとも重要な情報源、雑誌の1つ。これは最新号。『最後の死刑執行』なぜアメリカの死刑は終わりつつあるのか?という題。アメリカの死刑がなぜ終わりつつあるのか、その原因のすべてをここで私は話すつもりはない。というのも、ここでは、日本の皆さんが何をしなくてはならないか、という話をしなくてはならないのだから。しかし、これがなぜ日本の皆さんにとって重要かというと、それは、アメリカが死刑を廃止したら、次に注目されるのは日本になるのだから。

アメリカの死刑がやがて終わるという兆しはいろいろと現われている。これまでの10年の間に起きた変化は重要。というのも、州の議会における変化だったから。この8年はほぼ1年に1州のペースで死刑が廃止されてきた。それが連邦最高裁へのシグナルとなっている。最高裁は死刑の問題にはあまり深入りしないようにしてきた。しかし、最高裁のこの20年の動きを俯瞰してみると、実は少しずつ死刑制度を解体してきているとも言える。

今大きな問題となっているのが薬物による執行。最高裁でいま係争中の事件が1つあるが、これで最終的に流れが変わるかも知れない。しかし今回、たとえ最高裁が死刑は完全に廃止すべし、とは言わないまでも、州にとっては衝撃的な判断が出てくるはず。そして、あと2州、3州が死刑を廃止するなら、最高裁も死刑廃止を宣言する可能性がある。

ではなぜこのことが日本にとって重要なのか?それは、日本でも死刑廃止に向けて起きなくてはならないことが、アメリカで少しずつ起きてきているから。死刑を廃止しようと思うなら、皆がもっと頑張らなくてはならない。日本の人々が、死刑の真実に関してもっと認識を高めなくてはならない。日本でも死刑制度の問題点を浮き彫りにするのに十分なだけの事件が起きている。だからまずは弁護士会から始まらなくてはならない。皆さんが、被害者家族に声をかけ、彼らがどんな気持ちでどんな生活を送りながら刑の執行を迎えるのかを知らなくてはならない。アメリカでは被害者家族のグループが、運動の最も重要で最も力強い推進力となった。

もう1つ重要なことがあって、ゆうべもその話をしたのだが、死刑のコスト効率の分析。これをしなくてはならない。というのも、アメリカでは、普通の裁判と違って死刑事件の裁判は、何百万ドルも余計に費用がかかることが分かってきた。日本でどのくらいかかるのかは知らない。裁判制度そのものが違うので。しかし今日の世界では、そして少なくともアメリカでは、費用の問題が、多くの州の死刑廃止の最大の要因のひとつである。

警察の仕事をしていた私のような者が、なぜ死刑に反対する話をしているのか、皆さんも不思議に思われたかもしれない。最初は私も多くの友人を失った。しかし、やはり、警察関係者を運動に関わらせることが重要。3年前、クリスマス・パーティーを警察関係者とやっていた。最後に警察官がひとり近づいてきて私に言った。「コミッショナー、あなたはなぜそんなに死刑に反対するのですか?私には理解できない」と。私は「では私のほうから質問しよう。万がいちあなたが人に殺されるようなことになったら、私に家族の面倒を見て欲しいか?妻や子供の世話を誰かにして欲しいだろう?」彼は「もちろん面倒みてほしい。あなたなら世話をしてくれると思う」と答えた。そこで私は「私がそのような目にあっても、君は私の家族の世話をしてくれると思っているよ」と言った。彼は「もちろんお世話をします」と言った。

そこで私は言った。「ならば、お願いがひとつある。もし私が誰かに殺されるようなことになったら、その殺した男が死刑にならないようにしてほしい。死刑にしないと約束してくれるか」と。彼は私を見据えて「気は確かですか?」と言った。私は答えた。「確かだ。君も私もこの制度の中で仕事をしてきて、よく分かっている。死刑制度がいかにひどいものであるか。裁判は何年にも及び、犯人の名前が新聞に出て来るたびに私の家族は苦しむことになる。何度も見せられる写真も、私ではなく、犯人の写真だ。裁判官や検察官は、私の殺害者が処刑されるとほっとすると家族には言うだろう。私の家族をそのような目に遭わせたくないのだよ。だから、私が誰かに殺されたら、家族の世話をよろしく頼む。そして、犯人が死刑にならないようにしてくれ」

彼はうつむいて首を振ったあと私を見据えて「おっしゃることは分かります」と言った。私は「分かってくれてありがとう」と言った。「でもこれで終わりじゃないんだ。君はどうなんだ。君の家族にも同じようにしてほしいかい?」すると「少し考えさせて下さい」と彼は言った。

パーティーがお開きになろうという頃に彼がまた近づいてきてこう言った。「あなたの言うとおりだ。私も同じことをしてほしい」。

わたしは妻とも同じ約束を交わしている。もし誰かに殺されても、お互い犯人の死刑は望まない、と。

この話をしたのも非常に需要な理由があるから。つまり、人々を運動に深く関わらせて、このような議論をしなくてはならないということ。問題は、ほとんどの人にとって死刑が自分とはまったく関係のない問題になっていること。考える必要もなく、自分の身に降り掛かることもないと思っていること。そして死刑事件の実相が伝えられていないということ。真実を知らないから、関心がないのだ。

だから我々の仕事は、人々に死刑の真実を伝えること。いまメディア関係者に友だちがいなければ、まずは友達をつくること。そして、いまはソーシャル・メディアが氾濫している。福岡事件、袴田事件、名張毒ブドウ酒事件、こういった話を人々にぶつけて、考えてもらわなくてはならない。冤罪は別に日本やアメリカに限らない。世界中にある。人々はその真実を知らなくてはならない。いまアメリカで起きていることに対して、日本も備えがなくてはならない。こう言う言い方は語弊があるかもしれないが、要するに、<弾を籠めろ>ということだ。

まずは味方を見つけるということ。支援を確保するということ。議論をどんな形であれとにかく始めるということ。国会に耳を貸してくれそうな議員がいたら、逃してはならない。時間はかかるかも知れない。しかし、アメリカの経験で言えることは、真実を知る人が増えれば、そして、より多くの人が力を合わせれば、可能だということだ。

だから、最後はこう言って終わることにする。アメリカで死刑を廃止するのであれば、私は仕事がなくなる。皆さんは日本で私の姿に接する機会が増えそう。皆さんのお役に立てれば幸いだ。古川師にもこう約束した。私もわらじが脱がれない。

ご清聴ありがとうございました。

補足発言(ジョージ・ケイン):

あと2州、3州、死刑廃止をする州が出てくれば、連邦最高裁も死刑廃止に踏み切るかもしれない。私がそう思う理由は、連邦最高裁のやり方に関し、1つの前提があるからだ。それは、「進化的品位基準」evolving standards of decency というもの。最高裁は、揺れる問題に対しては、この基準を当てはめる。アメリカには50州あるが、うちすでに19州が死刑廃止を決めた。だから、死刑を廃止した州が過半数という事態が迫っている。19の死刑廃止州に加え、さらに3つの州で死刑廃止の州法が成立しようとしている。これには2、3年かかるかもしれない。しかし、そのほかに5つの州で、すでに死刑の執行を停止させている。それは死刑を執行する上で技術的な問題を抱えているから。これらの数を足すと、25を越え過半数となる。それを根拠に、最高裁は死刑の廃止を宣告するかもしれない。

そうなると、次は日本だ!

また来ます!

 


 西武雄さん遺品展

7月1日(水)〜4日(土)13:00-19:00
東京四谷イグナチオ教会 岐部ホール309号室
(福岡事件の冤罪被害者、西武雄さんの遺品展です)



関連記事:

⇒ 死刑の死が視界に (米「タイム」誌)
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