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NPT再検討会議決裂2 アメリカはしゃあしゃあと 日本は粛々と [核兵器]

(NPT再検討会議決裂 1 の続き)


ICANは、1997年の対人地雷禁止条約のように、加盟したがらない国々は差し置いて乗り気の国々——有志国だけで先に禁止条約を作り、核兵器の汚名化を計り、国際的な規範にして非加盟国を追い込んで行こうという考え方だ。

ICANロゴ.jpg

しかし、すでに20年来の核廃絶モデル条約の動きがある。それを後退させてしまう心配はないのか。4月末国連本部で開かれたNGOの会議の参加者の発言に、そのような懸念がうかがえた(上記核兵器条約案を2010NPT再検討会議の準備委員会に提出したLCNP核政策法律家委員会のメンバーなど)。核兵器の禁止を有志国だけで条約にしても、核兵器保有国が加わらなければ意味がないと言う考え方だろう。いくら彼らに「汚名」を着せ、核廃絶に向かわざるを得なくすると言っても(対人地雷では確かに今そのような成果が見られ、有志国だけで始めて、非加盟国を追いつめ、地雷の製造や使用がしにくくなっている)、核と地雷では格が違う、強く抵抗してくる、とIALANAなどにも同じような懸念があるはずだ。


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(リンカーンも使ったことがあるというクーパー・ユニオンの会場。国境なき通訳団が同時通訳席を設置)

 

しかも違法という宣言はこれまでもいろいろな形で行なわれてきており(国連総会決議もあれば、下田裁判の判決もあれば、国際司法裁判所の勧告的意見もある)、十分に汚名は着せられている。「この上、何が必要というのだ?」(注3) それでも、核保有国らは、しゃあしゃあとしているではないか。「誠意ある交渉」はいつまでたっても始まらないどころか、核兵器の近代化すら進めようとしているのだ。核兵器の削減は「ステップ・バイ・ステップ」で現実に即して進めて行くと言うくせに。となれば確かにこの上、核兵器保有国の加わらない禁止条約を作ったからといって、核保有国をどれだけ追いつめられるというのか、という疑問も生じる所ではある。

 

思えば1946年の1月に採択された国連総会の第1号決議からしてそもそも核兵器の廃絶を求める決議だった。人類史上最大の戦禍を経て真っ先の決議。つまり、いかに切迫した問題と核廃絶がとらえられていたかということだ。そこから数えれば70年、その願いが果たされないまま来てしまっている。

 

1961年の国連総会決議など「核兵器・熱核兵器の使用は国連憲章の精神・文言・目的に反し、それ故、国連憲章そのものに違反すると宣言する」と明確だ。「核兵器・熱核兵器を使用するいかなる国も人道の法に反して行動しているものとみなされ、人類と文明に対する犯罪を犯しているものとみなされる」。ここまで言っている。これで核兵器は十分汚名化できたかと思うが、またまたおめーかアメリカさんよ、しゃあしゃあと、この宣言から核不拡散条約NPTが発効する1970年までのおよそ10年間に、アメリカの備蓄する核兵器は、ソ連との競争で、約1万個から3万個に増えてしまうのだ。

 

アメリカはこれから膨大な予算をつぎ込み、ほぼ過去最大規模の核兵器の更新を行なおうとしている。あなたが平和の行進やってる間に、兵器の更新、核兵器の近代化といいう総ざらえ。そうざらにあるものじゃない。

 

えー?「核なき世界」目指すんじゃなかったのオバマさん?だなんて言っているのはお人好のおばかさん。だから彼の演説をもう一度聞き直してみなさいと言っているんですよ。「おそらく私の生きている間はむり」perhaps not in my lifetimeですよ。

 

プラハで「核兵器を使用した唯一の国としての道義的責任」とアメリカの大統領の口からこんな信じられないような言葉が発せられるのを聞いて、油断はなかったか。新しい時代が来たと騙されてしまったのではないのか。

 

中堅国家が後押し、市民の運動の新しいうねり

 

1992年の呼びかけ(IALANA国際反核法律家協会、IPB国際平和ビューロー、IPPNW核戦争防止国際医師会議)に始まる「世界法廷運動」は、数百万という市民の署名を集め、核兵器の使用に関するICJの勧告的意見(1996年7月)を引き出した。あのときのように大きな運動の盛り上がりが今また必要だ。この時のICJ国際司法裁判所の判断に照らせば、アメリカの原爆投下は明確に国際法違反。アメリカが「国家存亡の極限状態」になかったのは明白なのだから(注4)。そしてNPTの6条(誠実に核軍縮交渉を行なう義務)よりさらに踏み込み「核軍縮に至る交渉を誠実に追求し完結させる義務がある」とした。

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写真:日本からオランダ・ハーグのICJに届けられた膨大な署名の箱(注5) 右端が寛兵衛 (1996)

 

世界法廷プロジェクトではニュージーランドなどの中堅国家が市民社会と連携して主導したが、その流れは「新アジェンダ連合」NACとなり(1998年)、そこから2000NPT再検討会議における「核廃絶に向けての明確な約束」につながった。

 

しかし、着実な歩みというのか、遅々たる歩みというのか。一つの文の中の一字一句を、いったい何年がかりで改編している。交渉を「始めれば」良かったものが、25年後には「完結させる」となり、それが5年後にようやく「明確な約束」となる。そこにある「軍縮」という言葉が何を意味するのか、減らすだけでいいのか、完全になくす「廃絶」なのか、明確になるのはいつのことなのか。

 

「私の生きている間は無理」とか「数世紀先」と言うんじゃないだろうな?!

いや、そういうことだよ。オバマやクリントンが言っているのは要するに。

 

(核兵器の大規模な更新を考えているオバマも学生時代は反核行進に加わっていたというから、大統領をやめてからなら広島・長崎に来るかもしれないが。カーターのように)

 

新たなうねり

 

そして今、世界法廷プロジェクトのときと同じように中堅国家(核兵器の人道上の影響に関する国際会議を引き受けたのはこれまでノルウェー、メキシコ、オーストリア)と市民社会の連携で盛り上がるICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)である。日本では多様な団体が参加し、署名もふたたび数百万単位!

 

ウィーン会議で打ち出された「オーストリアの誓約」(核兵器の禁止・廃絶のための行動を誓う内容)はその後、「人道の誓約」と名を変え、賛同はNPT再検討会議前の70カ国ほどから急増して今や107カ国。ICANではこれを核兵器禁止条約の土台にと考えている。

 

しかし、日本はアメリカの核の傘に守られ良くしてもらっている核抑止論者という制約があり誓約に賛成せず。安倍首相は「いたずらに核保有国との関係に溝を作り、一歩も理想に近づくことにならないアプローチ」と評したが、この5月のNPT再検討会議を経てICAN陣営では、先行「核兵器禁止条約」を目指し次なる外交攻勢を準備しているようである。今年、原爆投下70周年をひとつの好機ととらえているのだ。

 

アメリカはイランの核開発疑惑をあれほど執拗に追求するが、同じ中東のイスラエルはNPTに加盟もせず、密かに核兵器を開発・保有して、一切おとがめなし。100発近く保有するイスラエルは特別扱い。しゃあしゃあと2重基準。そして今回のNPT再検討会議の最終合意を阻んだのはまさにこの中東がらみであった。

 

「核疑惑国」イランとの核協議の期限をアメリカは6月末に控えている。しかし「核保有特別待遇国」イスラエルのネタニヤフ首相からは、このイラン協議は軟弱で、イランの核開発を阻止することはできないと、今年始めアメリカ議会で強烈な演説をぶたれたばかりビビはビビらず イスラエルの「存立事態」を訴え←安倍演説といかに違うかご覧じろ)。今回のNPT再検討会議の最終合意文書案には「中東非核兵器地帯構想に関する国際会議」開催への言及が盛り込まれていたため、アメリカとしては、イスラエルを窮地に陥れるわけにもいかず、イスラエルをかばう形で採択に反対し、決裂したのだった。

 

どこまで汚名化できるのか

 

「人道的対応はとても不可能。核は廃絶するしかない」という議論を3回の国際会議で積み重ねてきて去年12月、ウィーン会議の最後に日本の軍縮大使が何を思ったか発言を求め言った。「あなたたち悲観的すぎる。もっと前向きに考えないと」。このときは、さすがに会場全体を揺るがすような「おめーなー!」という、驚愕というか何かゼツボー的な気分が漂った。私も椅子からずっこけそうになった美しく青きドナイ なるねん?

 

このような出来事がきっかけで世論が動くこともあろう。「世界法廷運動」のときは、日本政府が「核兵器の使用は国際人道法の精神には違反するが、国際法違反とは言えない」とする意見を準備していたり、広島・長崎市長の証言を当初拒む姿勢を示したりしたことで、世論は憤り、運動を強く後押しすることになった。

 

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写真は今年4月末のニューヨーク、NPT再検討会議でヒバクシャ展の開会、サーロー節子さんの日本政府に対する厳しい批判に精一杯誠意ある姿勢で耳を傾ける大使(中央)だったが、とても苦しそうな表情がのぞいた一瞬である。

 

広島で被曝しカナダに住んで長年核廃絶を訴えてきたサーローさんがノーベル平和賞を受賞したり(候補に上がっている)、何か世論を突き動かす出来事が起きたりすれば、運動に火が付くかもしれない。

 

そう考えるのは国際政治の厳しい現実を知らない素人の希望的観測? ICANは甘っちょろい夢想家集団?市民運動から対人地雷禁止を訴え、カナダ政府などとの連携で対人地雷禁止条約の成立を達成しノーベル平和賞を受賞したジョディ・ウイリアムズはICANに次のようにメッセージを寄せている:

JWBMSG.jpg

 

「<核兵器の廃絶?夢想家の夢物語だ>

そんな声に耳を貸すな。

対人地雷禁止運動のときもそう言われた」

 

突破口が切り開かれるのかどうか。原爆投下から70年の今年、核兵器廃絶運動から目が放せない。

 

 

 

 

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注3)

マヌエル・ピノ・スコッツデール大学教授の発言(ウラン採掘にからむ先住民の権利運動)4月28日、ニューヨークのクーパー・ユニオンで開かれたNPT「平和と地球」会議で。これまでの運動が失敗であることを認め、新しく出直せと言っていた。

 

注4)

「核兵器の威嚇または使用は武力紛争に適用される国際法の規則に一般的には違反」しかし国家の存亡のかかる自衛の極限状況において「確定的な結論を下すことはできない」とした。「あらゆる場合において国際法違反」というすっきりとした形にならなかったことにハーグに行かれた被爆者もひどく落胆された。このときのIALANAのピーター・ワイスの言葉を思い出す。がっかりすることはない、アメリカはあのとき「自衛の極限状況」なんかじゃなかったのだから、裁判所は広島・長崎への原爆投下が国際法違反ということを明白に述べているのだ、歴史的だ、と言っていた。

 

注5)

運動を大きく盛り上げたこの数百万の署名は、主に日本の生協からのものであった。

 

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