英軍シリアで空爆「自衛の行為」の正当性は?国益を脅かす「重大な事態」とは? [戦争をする国 日本]
英国カメロン首相がシリアでの英軍無人機による空爆を事後報告。英国籍のIS戦闘員2名を8月に殺害していたことを議会で説明した。
イギリス議会は2年前、シリアへの軍事介入を否決していた。イギリス軍のISへの空爆参加はイラクに限定。今回は、イギリス軍が介入していない国において軍事攻撃を行なう近代における初の事例となった。
首相は「自衛の行為」と釈明。政府はこれまでも「重大なイギリスの国益の関わる場合は」シリアでも「直ちに行動をとり」議会には事後報告を行なうとしていた。
殺害された2人はイギリス生まれでイギリス国籍。ISの要員募集や、イギリスにおける殺害事件の計画に関わっていたされる。無人機による今回の空爆にあたっては首相が法務長官に意見を求め、法的な根拠があるとの返答を得ていたという。野党がその「法的意見」の公表を求めたが、拒否された。
イギリスで「テロ攻撃が実際に起きてしまったあとに、それを事前に防ぐためにとれたはずの措置をなぜ採らなかったかの説明を下院でするつもりはなかった」と首相。
しかし論争必至。「自衛の行為」の法的根拠はあいまい。議会にも国民にも明かされない。秘密主義に包まれた、多分に恣意的な決断だ。しかも標的は自国民。議会が介入を否決した国においての無人機攻撃。
日本にとっても他人事ではない。政府が「総合的に判断」する安保法制と大いに似通った構図だ。
超法規的殺害? 国際法違反?それとも正当な自衛の行為?
英国議会ではカメロン首相がシリアで英国籍のIS戦闘員2名をこの8月に殺害していたと事後報告したが、野党からは超法規的な殺害ではないかと批判が噴出している。
政府は「完全に合法的な自衛の行為」(防衛相)と釈明。首相によるとイギリスに対する武力攻撃が計画されつつある「明確な証拠」があった。無人機による殺害は、国連憲章51条に認める自衛権の行使と主張。
国連憲章51条によれば「武力攻撃を受けた国連加盟国は、安保理が国際的な平和と安全を維持するため必要な措置を採るまでの間、自衛の権利がある」。
比例性と必要性という国際法上の原則を満たす限りにおいて、先制攻撃が可能という意見もある。武力攻撃が実際に行なわれるのを待つ必要はないのだ。ただ、国連憲章51条によれば、武力攻撃が実際に起きつつあること、ないし、差し迫っていることを証明できなくてはならない。カメロン首相は「明確な証拠」があった、攻撃には「法的根拠がある」という法務長官の「法的意見」をもらったというだけで、それ以上の具体的なことは言わない。
アメリカも国連憲章51条を引き合いに同様の殺害を正当化している。イエメンにいたアメリカ人イスラム教徒アンワル・アル・アウラキ容疑者を2011年に米軍の無人機で殺害しているのだ。
アウラキは様々の事件につながる人物で、英語ができるのでインターネットで各国の若者に呼びかけ、過激派を募ることでも脅威だった。2009年デトロイト行きの航空機を爆破する計画に失敗。オバマ大統領はそれを機に、CIAに対しアウラキ殺害の許可を与えた。オバマはこのような外国にいる過激派指導者の殺害に無人機を投入。パキスタンとアフガニスタンとの国境地帯などで無人機を多用している。
アウラキの事件では遺族が訴えを起こしたが、アメリカ政府は、標的殺害は正当な自衛の形態であるとする2006年のイスラエル最高裁の判断を引き合いに、これを退けた。イスラエルも標的殺害を、ガザ地区のパレスチナ人指導者に対して行なっている。(情報機関モサドは外国でも)。そのようなミサイル攻撃で殺害された有名な人物の1人にガザ地区のヤシン師がいるが、師は軍人でも、戦闘員でもなく、ハマスの福祉部門での活動で知られた指導者であった。軍事攻撃で非戦闘員を殺害することは国際法上許されない。
イギリス政府は今回のような事例はこれまで国際法ではなく刑法の分野として扱ってきており(平時パラダイムにおける法執行)、今回、国連憲章51条を持ち出したのは、新しい方向性を示す。すなわちアメリカ流の「戦時パラダイム」の採用である。国際法に基づいて正当化したいのであれば、攻撃が差し迫ったものであることの証拠が必要。政府にはもっと明確な説明が求められる。野党は法務長官の「法的意見」の公表を求めたが、政府は応じないとしている。
人権団体は「首相は世界のどこでも誰でもいつでも殺すという秘密の検証不可能の権限を自らに与えてしまった」と批判。議会はシリアへの軍事介入を2年前に否決しているのだから、なおさらのこと、事前に議会の承認を求めてしかるべきであったという声もある。しかしそれは慣習上はそうかもしれないが、法的に明示的に求められていることではない。
イギリスは、北アイルランド紛争のときも、恣意的に容疑者を殺害してよいという方針だったと非難された。ジブラルタル(イギリス海外領土)でIRAアイルランド共和軍の3人をイギリスが殺害した件でも、EU人権条約2条に定める「生存権」の侵害であると1995年に欧州人権裁判所が判断している。
この問題は今後も意見が分かれるであろう。しかし、「攻撃が迫る明確な証拠があった」と説明するだけでいいのなら、いつでもどこでも勝手に武力行使を始められてしまう。ベトナム戦争だってアメリカの言う魚雷攻撃「トンキン湾事件」はアメリカのでっち上げだった。
ひるがえって我が日本はというと、このまま安保関連諸法案が通れば、うそばっかりつく安倍総理のもと「その時の状況を総合的に判断」して自衛隊が海外に派遣され、どんどん一体化が進む米軍と行動を共にし、国際法上問題の多い様々のことに手を染めていくだろうことは目に見えている。
その安倍阻止に自民で名乗り出たのは野田聖子議員(と記者会見に尾辻議員1名)だけ。911直後、大統領の戦時権限強化の採決、米国議会でたった1人だけ反対したバーバラ・リー議員を思い出した。戦争にひた走る日本である。
BBC:
Islamic State conflict: Two Britons killed in RAF Syria strike
Who, What, Why: When is it leagal to kill your own citizens?
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