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地上で最も危険な機械 [核兵器]

「地上で最も危険な機械」(エリック・シュロッサー)

ウィーン会議、リスクに関するセッションから。

これを収録したのは、彼の主張の多くがそのままそっくり原発にあてはまると思うからでもある。

 

 

政府会議初日(8日)第2部:「リスク」


冒頭で「世界を救った男」元ソビエト軍将校のスタニスラフ・ペトロフ氏のビデオ・メッセージが流れた。彼がミサイルの警戒システムの当直だった1983年、レーダーにアメリカのミサイルが現れる。幾度も確認を繰り返した彼は、これを警戒システムの誤作動と判断する。後にその判断が正しかったことは判明するが、その瞬間、彼の判断いかんによってはソビエトの反撃の命令が下されることにもなっていた。「私たちが今ここに集うことができたのは、彼のおかげとも言える」と議長が前置きすると場内に拍手が起きた。


S・ペトロフ:


「今回参加できずに残念だが、皆さんが会議をやっておられることを嬉しく思う。世界は恐るべき破壊力を持つ兵器を溜め込んでいる。世界は非常に危うい淵に立っている。平和的共存こそ大切。将来の世代の為にも」

 

(この日、夕刻に会議の関連催しとして新作映画「世界を救った男」の試写会も行われた)


「最も危険な機械」


エリック・シュロッサー

(ジャーナリスト、『指揮系統:核兵器、ダマスカス事故、安全幻想』著者)


アブストラクト:


「核兵器が組み立てられると、それは地上で最も危険な機械となる。その危険はこの技術に本来的に内存するものである。これまで人間が作った機械で故障しないというものはない。そして必ずミスを犯す人間である。その人間が作る機械が、絶対ミスを犯さないというはずはない。コンピュータ・ソフト、飛行機、自動車。こういったものが故障しても被害はある。しかし、核兵器が起爆したときの壊滅的な被害はそれとは比べようもなく大きい。


事故理論の専門家たちは以前から、複雑な技術に内在するかくれた欠陥のことを警告して来た。この警告は核兵器の指揮系統にもあてはまる。偶発的な核兵器の起爆の可能性は低いにしても、その及ぼす影響は想像を絶するほど大きい。蓋然性の低い出来事も必ず起きる。核兵器を管理するなかで忘れ去られがちな不幸な真理はこうだ;何かが起こる確率が完全にゼロではないということは、それはいつの日か必ず起きるということである」

 

「最も危険な機械」(政府会議での発表):


「この本を書くために6年間調べました。情報源は数万ページ。アメリカで情報公開法に基づき入手しました。さらには直接の取材。相手は爆撃機部隊の要員、国防総省の高官、空軍の将校。アメリカの核兵器を担う人々です。そこで分かったのは、核兵器というものは国の力や威信の象徴ではなく、機械であるということ。核兵器も人間が作った機械なのです。人間が設計し、維持している機械であるということ。


核兵器は機械、必ず故障する


それがなぜ重要なことかというと、すべての機械は故障するからです。人間が作って動かしている機械で、いつまでも故障しないというものは考えられないのです。トースターも火災を起こします。マイクも故障します。自動車も大量生産1世紀あまりですが、今なお数百万台がリコールです。高級車でもそうです。エアバッグで死者が出たりもしています。安全のために作られた装置が、逆に人を殺すのです。最新鋭の旅客機の一つだったマレーシア航空機は消息を絶って9ヶ月の今も見つかっていません。


間違いを必ずおかす不完全な人間が、完全な機械を作れるはずがありません。そこも重要な点です。というのも、核兵器はこれまで作られた最も危険な機械だからです。


複雑な技術システム


そして機械である核兵器は、また別の機械につながっている。航空機に、ミサイルに・・。そしてそれらの機械がまた別の機械につながっている。コンピューターに、通信システムに、レーダー早期警戒システムに・・。全体として非常に複雑な技術システムです。私が調べて分かったのは、人間は複雑な技術システムを創り上げるのは得意だけれども、それを管理・制御するのはそれほど得意ではないということです。そして何かが間違った時、どうしたらいいか、ということに関してはまったく不得意ということです。


「アンダー・コントロール」にない技術


核兵器の歴史を調べて分かったのは、この技術は一等最初からぜんぜん制御できていないということです。1945年7月、アメリカは世界初の核爆発装置の起爆を準備していましたが、世界でもっとも優秀な科学者たち、物理学者たちもまったくよく分かっていなかったのです。核爆発が起きたら、地球の大気圏に火が移って、地上のあらゆる生き物を殺してしまうかも知れない、とも思っていたのです。ハンス・ベーテは、そうはならないと思っていました。エンリコ・フェルミは10分の1の確率でそうなると言っていましたが、冗談か本気か、誰も知る由はありませんでした。いずれにせよ、科学者たちは1年かけてその計算をしていたのですが、実際にどうなるかは、1945年の7月に実際に起爆させてみるまで知らなかったのです。


マンハッタン計画に加わった物理学者の1人ヴィクター・ヴァイスコプフは、爆心地より15キロの所にいましたが、起爆のとき顔に熱を感じ、実際に地球の大気圏に火がついたと思っていました。ですからこの技術は、一等最初から、創ってはみたものの、完全に理解し尽くしているわけではないようだ、ということだったのです。


冷戦時代、アメリカの核兵器に対する要件は、まず、すぐ使えること。起爆すべきときにちゃんと起爆して、不発ということがない、ということ。と同時に一方では、決して事故で起爆しないこと、盗まれないこと、許可なく使用されないこと、という要件がありました。ですから根本的に相反するふたつの設計上の目的があったわけです。「必ず」対「決して」です。必ず起爆するようにというメカニズムと、決して偶発的に起爆しないようにというメカニズム。そしてその二つは非常に異なる場合が多いのです。アメリカの核兵器の設計の歴史では一貫して「必ず」が「決して」より優先させられました。その結果、壊滅的な事態ぎりぎりの所に至りました。


32の「折れた矢」と1千件以上の事故


国防総省は一覧表を公表しています。32の「ブロークン・アロー」(「折れた矢」)、すなわちアメリカの重大な核兵器の関わる事故32件です。公式なリストです。私は情報公開法で政府の情報を入手しましたが、それによると、1950年から1968年の間だけでも1千件以上の事故、核兵器の関わる事故が起きています。一部は比較的些細な事故です。しかしその秘密のリストの一部は、32件の「折れた矢」という正式なリスト以上に重大です。


その例を手短に紹介しましょう。1961年ケネディ大統領の就任の数日後でしたが、ノース・カロライナではB52爆撃機が空中分解。きりきり舞いして落下する爆撃機の操縦席では水爆投下用の引き綱に力が加わってしまいます。相手は機械ですから、それが人間の手によるものか、墜落する飛行機の向心力によるものかの区別はつきません。設計通りの仕事をします。こうして水爆はノースカロライナに投下されました。


水爆は起爆に備える一連の段階を経て地上に着弾。起爆のための信号が発信されますが、1個のスイッチのおかげで、起爆には至りませんでした。広島型の原爆より何百倍も威力のある水爆です。これがもしこのとき起爆していれば、アメリカの東海岸一帯が放射性降下物に見舞われたはずです。そのスイッチはのちに欠陥品であったことが分かり、今日の核兵器にはもはや使用されていません。


私たちはたまたま運で助かったにすぎません。他にも事故はありました。一見なんでもないような単純なことで破滅的なことになっていたかもしれない事故です。サウスダコタのミニットマン・ミサイルのサイロで防犯ベルが鳴ります。保守要員が現場に向かいました。しかし、ヒューズの取り外し機の代わりにねじ回し(ドライバー)を使ってしまいます。配電盤のヒューズを点検し始めるのですが、何個かヒューズを外すうち、大きな爆発音がします。ショートを起こしてしまったのです。それで核弾頭がミサイルから外れてしまいます。起爆はしませんでしたが、起爆する可能性もあったのです。

 

それから私の本の中で詳しく書いたもう一つの事故では、アーカンソーのタイタンII型ミサイルのサイロで作業員が工具を落としてしまいます。工具はサイロの地面で跳ね返ってミサイルに当たり、燃料漏れが起きます。爆発性のロケット燃料です。やがてミサイルが爆発。核弾頭はミサイルから吹き飛んでその後何時間も森の中で行方不明となっていました。この核弾頭は爆発してもおかしくなかったのです。爆発していたらアーカンソ州ーのかなりの部分を破壊していたかもしれません。


もう一つだけ紹介しておきましょう。ノースダコタのグランド・フォークス空軍基地ではB52爆撃機のエンジンの燃料フィルターに小さなナットを1個取り付けるのを作業員がうっかり忘れていました。そのためエンジン火災が起きます。爆撃機には核兵器が12個搭載されていました。核兵器にも火が及んで起爆する恐れがあったのですが、強風が逆方向に吹いていて核兵器には燃え移りません。そしてやがて火は鎮火しました。私はその爆撃機の乗組員の1人に話を聞きましたが、なんと彼が言うには、もし滑走路の別の駐機場スペースにあてがわれていたら、下手をすると風は逆方向になっていただろうから、核兵器は起爆し、人口5万のグランド・フォークスの町は破壊されるかプルトニウムで汚染されるかしていただろう、とのことでした。この場合、駐機場のどこに爆撃機をあてがうかが、安全と大惨事の境目だったのです。


1つの不具合から複合的な不良へ


核兵器が存在する限り、壊滅的な事故の可能性も残ります。核兵器を保有する国はどの国も、まさに核兵器を保有することによって、敵はおろか、自国の市民までをも危険に陥れています。核兵器は複雑な技術システムです。非常に単純な技術システムではーー例えば工場の組み立てラインを考えてみましょうかーー何か問題が起これば流れを一旦止めて、問題を解決したうえ、ラインを再稼働させます。


しかし核兵器のような複雑な技術システムでは、事故が起きても、同時にいろんなことが起きていますから、何がどうなっているのかよく分からないのです。フクシマの事故でも、原子炉の中で何が起きているのか、今もって、よく分からないのです。いずれも複雑な技術システムです。複合不良(ひとつの不具合で複合的なシステムの不具合が起きるコモンモード不良)に弱かったりするのです。


冷戦時代にアメリカで最も広く配備されていた水爆の一つはそのような複合不良に弱いものであったことが今では分かっています。爆弾の金属製の表面に近いところに配線があり、それが起爆準備を起こすための配線だったのです。ですからこの水爆の表面に熱が長い間伝わると複合不良の一貫として3つのことが起きたことが今では分かっています。まず安全装置が働かなくなります。二つ目に起爆準備に入るということ。そして三つ目は起爆です。幸運にもこの兵器はもうアメリカの兵器庫から消えました。しかし、この兵器によって、冷戦時代、壊滅的な事故が起こっていたかもしれないのです。


事故は起きて当たり前


エール大学の社会学者、チャールズ・ペローが、このような複雑な技術システムの話をします。事故は予期されざることではない、事故は起きるのがあたりまえ、と言います。そのようなシステムでは事故は不測の事態ではないと言うのです。


今日、アメリカの核兵器は以前よりははるかに減りました。40年、50年前からすると安全装置もずいぶん進歩しました。それでも問題は起きます。2008年、ミニットマン・ミサイルの保守要員がワイオミングのサイロに行ってドアを開けると火災になっていました。火災報知器が作動しなかったのです。幸いにも火災はそのまま鎮火し、ミサイルに燃え移りはしませんでした。


2010年には同じ基地でミニットマン・ミサイル50発が1時間にわたりオフラインとなりました。つまり、発射係の要員も1時間、ミサイルとの交信ができなかったということです。あとで分かったことですが、コンピューター・チップが外れていたのです。あとでサイバー・セキュリティーの話も今日はあるようですが、誰かがコンピュータに不正に侵入し核兵器の指揮系統にアクセスしたのかという懸念も生じました。ミサイルを発射させるつもりだったかもしれないというわけです。サイバー攻撃です。


アメリカ以外の国々・・


私は我が国アメリカの核兵器の管理に関して非常に批判的ですが、アメリカと言えば、この技術を発明した国なのです。ほかのどの国よりもこの技術に関しては経験も豊富です。それでいて、壊滅的な事故にこれほどギリギリのところまで再三再四来ているのです。他の国では一体どうなんだろうということですよ。私がこのような本を書くことが出来たのも、世界で一番、自国の核兵器に関して透明性の高い国だからです。他の国における核の事故に関しては知りません。湾岸戦争後にイラクから押収した設計資料によるとイラクは安全性の非常に劣る兵器の開発を考えていました。ロシアは2011年に潜水艦の火災事故を起こしましたが、この潜水艦にあったミサイルは64個の核弾頭を搭載していました。

 

必ず起きる


確率が非常に低い出来事も、起きる可能性は残しているのです。私が取材した人たちの多くが言っていました。冷戦を一度も核兵器の起爆を見ずに切り抜けたのは運に過ぎない、と。「運」で問題なのは、それがいつかは必ず尽きてしまう、ということです」

 

(発表終わり)

 


●見出しは私が付けたもの。シュロッサー氏本人のものではない。

 

●シュロッサー氏は市民会議においても詳しい発表を行い、最後には会場とのやりとりで劇的な場面もあった。それについては後日また報告したいと思う。(「それは違う!」との聴衆からの反論。シュロッサーはうち1人を壇上に招きこういう意味のことを言った:我々はすべてのことで一致する必要はない、核をなくすという一点で合意すれば良いのだ。会場からやんやの拍手)

 

●政府会議第2部で行われたそのほかの発表は、核兵器が使われるリスクの諸要素、システムズ理論による分析、核戦争リスクの察知、などに関するものであった。

 


核兵器の人道上の影響に関するウィーン会議再録(目次)



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