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沈黙という名の共犯関係(2) [中東]

ラジ・スラーニ 東大講演 2014 10 11

質疑応答

ハマスは支持されているのか?

今回の侵攻が始まる前、ガザ地区において、支持は低下しつつあったと思います。しかし、ハマスはガザ地区において、競合する者、対抗する者のいない政治勢力です。ガザを支配するだけの力があり、ほかに彼らと競合する政党はないのです。とにかくガザを実効支配できるのです。

では、ガザの住民は諸手を上げてハマスを支持するのか?というと、パレスチナの政治で問題なのは、一つの政党への支持で全員がまとまる、ということがないことです。政治的には実に多様です。何かを無批判に受け入れるには、あまりにも教育水準が高すぎる、教養がありすぎるのです。

しかし、もう一つの問題は、例えば、左翼はもう危篤状態ともいうべきで、非常に弱体化しています。形としては存在していますが、影響力はありません。

ファタハはと言えば、本来ならいちばん力のあるべき存在です。しかし、内部分裂が激しく、バラバラです。非常に重大な内部的な問題を抱えています。深刻な財政問題すら抱えています。人はファタハとPA(自治政府)とを混同しがちですが、アッバス議長と治安機構は別物なんですね。要するにきちんとした一つの指揮系統になっていないのです。ですから、ファタハは集団を一つにまとめ上げるだけの力がないのです。

イスラム聖戦は、非常に強力な指揮系統があり、それは丁度ハマスと同じです。

ですから、これを要するに、順位としてはこうなります。支持率で断然首位を行くのがハマス。そして、2位、3位、5位くらいまでなくて、6位にイスラム聖戦。そして、7位ないし8位くらいにファタハが付け、14位、15位くらいに左派グループです。 

ハマスの人気が再びピークに達した 今選挙すれば勝つ

しかし今回の戦争中、ハマスの人気が再びピークに達したと思います。ガザの人々はその抵抗の姿を支持したのです。イスラム聖戦も同様に人気が急上昇しました。今、選挙をすれば、ハマスが再び勝利すると思います。私は政治家でもなく、政治の専門家でもありませんが、現状を見るに、そう思います。

ではなぜ力を失うことになってしまっていたのか? ハマスは支持が減りつつあることを、自分たちでも感じていました。財政的な義務も果たせない時期があったからです。ですからパレスチナ人のために物理的にも財政的にも人々への義務を果たさなくてはならないことを痛感していた。それが、封鎖を解くようにという要求、もっと自由をという要求につながり、もっと地域で政治ができるようにという要求となって現われました。

被害は彼らの予測を大巾に下回った あと50日続いても生き延びられた

ハマスは今後も力をつけていくのか?その点、彼らに妥協はないと思います。イスラム聖戦もまったく妥協しないと思います。それは確実です。彼らは今回の戦争で大切な教訓を学び、それによってさらに自信を得たと思います。今回の戦争で失ったものものは、実は、彼らが予測したものよりはるかに少なかったのです。51日続いた激しい戦争でしたが。彼らは戦争がさらに50日続いても生き残れると思います。つまり、彼らはやはり無視出来ない存在だということです。

そして結局のところ、今回学んだ教訓というのは、ガザ地区に対するよりも、むしろ西岸地区に対してのほうが、大きかったのです。ガザ地区での戦争でしたが、多くの教訓を西岸地区のために学ぶことができたのです。

ハマスを宗教運動と見るべきではない 「私たちは民衆のしもべである」

私はハマスを普通の典型的な宗教的運動と見るべきではないと思います。私は世俗的な人間で、宗教勢力は正直なところ大嫌いで、権力の座にすらいてほしくないのですが、ハマスもイスラム聖戦も、ここに来て、成熟の兆しといいますか、オープンな考え方になりつつあるのです。批判にも耳を貸すのです。私たちは時に正面から非常に厳しい批判を彼らに浴びせるのですが、それを彼らなりに理解しようと努めるのです。いつも必ずとは行きませんが、大半の場合そうなのです。

もっと重要なこととして、彼らが市民社会の意味をよく理解しているということが言えます。民主主義とか人権といった民主的な規範について実に優れた理解をしているのです。彼らはオープンになってきました。今回の戦争の最中、これまでで初めてのことですが――戦争の最中、そしてそのあともです――彼らの指導者たちが、イスラム勢力としては珍しいことですが、「私たちは人民の僕である」と言うのを聞きました。普通は「神の僕」と言うのですが。

最後にもう一つ付け加えると、ガザの状況を考えるならば、「イスラム国」のような勢力が台頭してきても不思議ではありません。しかしハマスがその場で抹殺するのです。モスクでも対決しました。5年前、ISISが自分たちの勢力圏を宣言しようとしたときのことです。その場で殺されました。迅速な、きっぱりとした対応でした。これが非常に強力な効果的なメッセージになるのです。

2日前、ガザ地区にあるフランス文化センターで事件が起きました。フランスというのは、日本と同じようにパレスチナ人にはいいイメージがあります。いずれもいいことばかり。好感度が高いのです。しかし、なぜかフランス文化センターで爆弾が爆発しました。明らかにこれは、何か陰の勢力のしわざと思われます。パレスチナ人のやったことではない。パレスチナのためにならないことです。ハマスがやったこととは思われません。他の勢力がやって来つつあるのです。ハマスには宗教的な姿はありません。ハマスは政治運動であって、宗教というのは個人の問題なのです。宗教的ということでは、狂信的ともいえるジャンダラー「神の兵士」といった勢力があります。

ICC国際刑事裁判所は重要な役割を果たせるか? パレスチナがICCに加盟する可能性は?

ICCの(検察官だった)オカンボ氏には3回会いました。最後はイタリア…(?)…ハーバード大学のロースクール…会議…食事をした…。彼は、政治的理由によりそれはできない、と言いました。ICCの検察官がそう言った。200809の戦争のあと。私もパレスチナのICC加盟が拒まれるのが政治的理由によるということは、それはその通りだと思います。しかし、パレスチナが201211月に国連のオブザーバー加盟国として承認されたとき、この問題に異論はなかったのです。

私たちはEUとアッバス議長の間で突っ込んだ交渉があったことは知っています。そしてICCへの加盟は認められないと言うのです。パレスチナの国連オブザー加盟が決まったときに備えての交渉です。私はこのことを、オブザーバー加盟を実際に認められる前から知らされていました。

ICCへの道 アメリカの待った イスラエルの脅し 

私たちは、イスラエルが非常に大胆に政治的かつ財政的な脅迫をしたことをちゃんと知っています。アメリカと(?)…。アッバス議長がICCのローマ規程に調印し、批准が行われれば、パレスチナ自治政府に懲罰、孤立化、制裁をもたらすという脅しです。

しかし私たちは黙っていません。この件に関しては努力を続けています。そして非常に効果的だと思っています。イスラエルへの対応として。なぜかと言うと、イスラエルの司法制度をを活用しているからです。1件や10件の提訴ではありません。200809年の戦争のとき、私は1,168件の訴えを起こしました。これはイスラエルの軍事法務長官のもとの軍事法廷です。1,168件の刑事訴訟です。事実や証拠、証人を送り込んで協力する用意があることも伝えました。さらにもう一つ、200809年の戦争ではイスラエルの裁判所で490件の賠償請求の訴えを起こしました。イスラエルの戦争犯罪の犠牲者が私たちの依頼人でした。

裁判ではまったく成果が上がりませんでした。4件の有罪判決があっただけです。一つは(パレスチナ人の)女性が娘と白旗を掲げていたのにイスラエル軍の兵士に撃たれ、死亡した事件です。4ヶ月の刑でした。もう1つはイスラエル軍の兵士がクレジット・カードを盗んで使った事件、あと2件は、イスラエル軍の兵士がパレスチナ人を人間の盾として使った事件です。いずれもナンセンスです。

サモニ家など一家29人が全員殺されたのですが、誰も責任を問われません。調査する価値もないと言うのです。ダイヤ一家22人一家全滅。誰も責任は問われません。などなどです。

ゴールドストーン調査団は、6ヶ月内に戦争犯罪の容疑者がイスラエルの法廷に呼び出されなければ、国連安保理を経て、ICCに持ち込まれるべきとしたのです。しかし、その動きは止まりました。アメリカが待ったをかけたのです。

戦争犯罪を法的に隠蔽

2012年の戦争の時も、多くの訴えを起こしたのですけれども、誰も責任を問われませんでした。私たちはイスラエルの司法制度を信用していません。35年間私はつき合ってきました。2008年から始めたことではないのです。イスラエルの司法制度はイスラエルの戦争犯罪に対して法的な隠蔽を与えるのです。ですから、(イスラエルの行う)個人を標的とした殺害、暗殺も合法です。拷問も合法。行政勾留も合法。などなどです。

私たちは戦争犯罪の犠牲者の弁護をするわけですが、イスラエルの法廷では失敗続きです。しかし、普遍的管轄権と言って、外国で裁判を起こすこともできます。マドリ―ドやロンドンで訴えを起こし、素晴らしいことになりました。勝訴したのです。

狭められる普遍的管轄権への道

しかしスペインの裁判の結果に関して、スペインの外相が(イスラエルに対し)謝罪しました。こんな結果になって申し訳ないと。そして法律改正を約束し、実際に法律を改めています。イギリスも法律を変えました。普遍的管轄権を使う機会をどんどん狭めているのです。

では私たちの依頼人である(戦争犯罪の)犠牲者たちの訴えをICCに持ち込む道はあるのか?ですが、ICCの今の検察官ファトゥ・ベンスーダはパリで開かれた公開の会議でこう言っていました。パレスチナ自治政府はなぜ来ないの?と。ICCのローマ規程に署名して批准すればいいのにと言うのです。私が直接会ったときに彼女はこう言いました。アッバス議長の半ページの、ほんの数行の書類があればいい。あとは私がすぐ手続きをとるから、と。

アッバス議長には何度も聞いているのですが、答えはありません。ですから私たちは公に言いました。アッバス氏は議長としてパレスチナ人の流した血と苦しみと土地に忠実でなくてはならない、と。そして、彼がローマ規に署名し、批准しなかったら、彼の正当性が疑われる、と。

ICC加盟への道 地獄の

ですからこの問題は今や、世論に依るところとなりました。世論を背に、私たちの圧力がさらに増すことを期待しています。私たちは本気です。犠牲者を代弁しています。訴えの準備は出来ています。翻訳も用意しています。そして、いいですか、もしこれが実現したら(パレスチナがICCに加盟したら)、イスラエルにとって地獄の門が開くことになるのです。

 (注:これは客席での録音をもとに翻訳したものです。極めて音響の状態の悪かった壇上よりは遥かに鮮明な音声ですが、それでも発音不明瞭のところ、あるいは周りの雑音などにじゃまされて意味不明のところがあり、「…」や「(?)」でそれを示しました)



ラジ・スラーニ 各会場の講演と質疑:

 

1011日 東京大学

 講演「沈黙という名の共犯関係」

 質疑応答

1012日 東京大学

 土井敏邦監督の記録映画について

 臼杵陽教授との対談

1013日 京都大学

 講演「かくも重き罪 裁かれぬ理不尽」

 質疑応答

 京大講演 IWJ 動画 「ガザに生きる尊厳と平等を求めて」

1015日 広島大学

 講演  「戦争犯罪の責任を問う」

 質疑応答

1017日 東京四谷講演  弁護士集会

 講演「ガザの封鎖を解いて下さい」

 質疑応答

 

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