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有志連合 有死連合とも言うし [中東]

有志連合 有死連合 問題解決せず

「イスラム国」(IS)に対する空爆強化を発表したオバマ演説を聞いて、私は、銃乱射事件のあとアメリカ人の親が涙を流さんばかりにしてテレビで語った言葉を思い出していた。その親はこう言った。

「本当に怖いことです。ですからやっぱり安全のためには、学校へ行く子供にも銃を持たせるようにしなくてはいけません」

your jaw drops (顎が落ちる)。日本語でいう「唖然」である。それでは何の解決にもならないばかりか、事態をいっそう危うくするばかりである。

オバマ演説を聞いて、なんたる皮肉かとも思った。戦争に反対し、米軍撤退を約束して大統領になった男、核廃絶を打ち出してノーベル平和賞までもらった男が、「イスラム国」ISに対する空爆強化を発表したのだ。

2008年当選、2009年就任。イラクの泥沼。経済の破綻。いよいよ立ち行かなくなったアメリカをこの国難から救ってほしいと初の黒人大統領オバマを誕生させ沸き立ったアメリカ国民。国を託するに当たっては、この大統領だけはもう勘弁願いたい、こんな政策だけは勘弁してほしい、そう多くのアメリカ国民に思われたのがジョージ・ブッシュだった。

今そのブッシュに似て来たオバマだ。ブッシュの言葉 coalition of the willing「有志連合」こそ使わなかったが、手法としては同じである。不戦のシステムである国連の場は迂回して、やりたい者たちだけで事を進める。オバマはbroad coalition of partners「協力者たちとの幅広い連合」と呼んだが、「有志連合」と同じこと。そしてそれは coalition of the killingにほかならないと米シンクタンクのフィリス・ベニスは言う。

coalition of the killing。語呂合わせまで訳せば「有死連合」あるいは「殺しの連合」か。

空爆 ―−> 決定的効果なし

アメリカの地上部隊は派遣しないと言いながら、オバマはイラクに軍事顧問団を1500人ほどに増やしている。軍事顧問団と聞くと私の世代などはベトナムの泥沼を思い出してしまう。これがまた、ずるずると深みにはまって行く泥沼の第1歩か?

武力では問題は解決しないと言って来た当の本人の空爆強化拡大演説。本腰すえて戦う気なのか? 2ヶ月後のアメリカ議会の選挙を睨んでのことか? 保守派から浴びせられるオバマ弱腰の批判をかわすためのその場しのぎか?

CNNの世論調査によると空爆拡大は76%が支持。 http://www.cnn.co.jp/usa/35053688.html
しかし、空爆ではISの勢いを削ぐことはできないという声もしきりに聞こえてくる。

イギリスの新聞の中東特派員歴30年以上というパトリック・コクバーンは、空爆に効果はない、勝てないとバッサリ斬り捨てる。「イスラム国」ISの部隊がアルビルとかアレッポとかバグダットとか都市へ向かって進軍中、道路上を整然と移動中、というなら空爆も効果的であろう、しかしこれはゲリラだ、司令部を叩くというがそのようなものはなく、ベトナム、アフガニスタンで泥沼にはまったアメリカやソ連と同じで、敵の正確な居場所が分からなくなるだろうから空爆の効果はない、と言うのだ。

その一方で、多くの罪もない市民が殺される。まさに「有死連合」、「殺しの連合」である。
すぐに効果が現われなくとも批判が高まらないよう、オバマは長い戦いになると釘を刺してもいる。
もしそうなら、その間、市民は殺され続け、あるいは、避難民、難民になるということだ。

シリア反政府勢力に武器と訓練 −−> 奪われる武器、勢力を増すIS

「反政府勢力に武器と訓練」と打ち出したオバマだが、その武器は「いただきー!」とばかり手ぐすね引いて待っているのが「イスラム国」ISだと、前述のフィリス・ベニスである。
敵はスーパー・アルカイダたるISとシリア政府軍。アメリカ政府のいわゆる「シリア穏健派反政府勢力」に訓練と武器を与えて太刀打ちできるような相手ではないとパトリック・コクバーンも言う。一部のイラク軍など、武器を捨ててそそくさと逃げてしまった。
実はすでにアメリカ製のさまざまな武器がISの手に渡っている。これはシリアの反政府勢力から奪った対戦車砲。

アメリカ製の武器.jpg
この銃にもはっきりと「アメリカ政府の資産」と刻印されている。

複雑極まりない紛争地帯にさらに武器と戦闘員を供給。しかもその武器は敵の手に渡ってしまう。これでは、失敗の処方箋でしかない。そしてISの戦闘員の数は増え続けている。オバマはアメリカ地上部隊の派遣はないと言うが、一部政府関係者は、地上部隊の派遣も排除するわけではないとまで言い始めた。迷いなのか。とりあえずなんとか中間選挙まで時間稼ぎの強硬姿勢なのか。

● CIAがISの規模を大巾に上方修正

相手は1万人だろ、やっちゃえよ、といった言説が右派のFoxTVなどでは聞かれた。
メディアで戦争を盛んに煽るコメンテーターの中には民間軍事会社や兵器メーカーと繋がっている人(顧問や役員)が何人もいることが分かっている。

しかし、ISの要員は増えていた。CIAも2倍、3倍に上方修正。これまで言って来た1万人ではなく、2万〜3万1,500人と言う(外国人は80数カ国の15,000人。うち欧米から2,000人)。

● なぜ勢力拡大 IS

以前よりサウジ、カタールなどからの資金援助、欧米の関与もあったが(「イスラム国 伸長の陰に米英の関与」)スンニ派の疎外感、反発が大きい。アメリカ占領政策からシーア派・マリキ政権に至るまに起きたことがが背景にある。スンニ派(旧フセイン独裁下の支配勢力)に対する冷遇、差別、排除、迫害である。

コクバーンはISを3万~5万人と見る。モスルを攻めたのは5000人。
イラク治安当局によれば、ある地域を100人で制圧すれば、やがてISは
500人、1000人になっている。その土地で人員を新たに調達しているのである。
地域には数百万人からいる。人は居る。ISには資金もある。
新しい土地を支配し、スンニ派住民から新たに人員をリクルート。
スンニ派も必ずしも皆がISを支持するわけではない。ISは狭量で極めて暴力的だ。しかし、
スンニ派にしてみればバグダッドのシーア派寄りの政府やシーア派民兵のほうがよほど怖い。
ダマスカスのアサド政権も嫌だ。どっちを選ぶかとなれば、IS だったりする。
同じスンニ派だし、参加する地元出身の人員もすでにいる。
小さなテロ集団ではない。オバマが言うほど「壊滅」できるものではない。根を張っている。
スンニ派の若者には失業者も多い。絶望している。
ISに加わることで支給される例えば1ヶ月4万円といったお金も魅力だ。
ISが勢力を伸ばしつつある。住民には、勝つ側に付きたいという心理も働く。
ということで、志願者が後を絶たないと言うのだ。

● 挑発に乗るな

英米ジャーナリストの頭部切断を世界に向け実況
なんとおぞましい。しかし、実はサウジだって制度として首をはねる刑罰を行っている。
「穏健派」の自由シリア軍だって捕捉した政府軍兵士の頭部を切断した。
こう見て来ると、アメリカ人斬首の映像を世界に発信するというのは、アメリカを戦いに引きずり込もうという挑発であることが分かる。
と同時に、オレたちはこんなことも出来るんだぞと、志願兵を募る宣伝でもあるようだ。
確かにそこにはアメリカに怒りと憎しみを覚える人々を強く惹き付ける暗い魔力が潜んでいる。

そしてひとたびアメリカが来れば、人々の憎しみと怒りが再び燃え上がり
ISに加わる人の列が出来て行くという悪循環である。

何もしない方が良い
構わず放っておくほうがよほど良いという見方もある。2009年から2010年にかけてISの前身に当たるISIS「イラク・シリアのイスラム国」がバグダッドで一連の爆弾事件を起して挑発した。アメリカの介入や宗派対立を惹き起こそうと、けしかけたのだ。アメリカ軍やイラク軍がこの挑発に乗らなかった(ないし乗れなかった)がために、彼らの試みは失敗した。この集団に加わろうという人が、さほど出て来なかったのである。彼らの残虐さのみが際立ち、嫌われた。だから、下手に武力で構うより、ほったらかしにしているほうがまだましというのだ。

しかしISがこの8月にアルビルの町を攻めたとき、オバマ政権は動かざるを得なかった。アルビルにはアメリカ領事館がある。領事館と言えば、2年前リビアで米国領事館が襲撃されアメリカの大使ら4人が殺された事件で共和党から責任を強く追求されて来た経緯があり、オバマ政権は、選挙も控え、何もしないわけにはいかない状況にいよいよ立ち至ったのだった。今回、アメリカが本気で構うつもりなら、下手をすると中東がいよいよ大混乱に陥るかもしれない。

密かに助け育てたはずの勢力がやがてアメリカに公然と刃向かうようになるというのは、
何も「イスラム国」ISが初めてではない。他にもその例はあるかいだ。
そう。オサマ・ビン・ラディンのアルカイダがそうだった。

自分たち以外の宗教・宗派に頑として反対し、欧米を忌み嫌うスンニ派の怪物「イスラム国」ISだが、
中東は思惑が複雑に絡み合い、状況は錯綜、敵の敵は味方、だったり、やっぱり敵だったり、敵が味方だったり?

イランが支援するシリアのアサド政権と戦うことにおいては、ISもアメリカも同じ側なのだ。
だからと言って、自国民を虐殺する独裁者アサドとアメリカが「味方同士」になるわけにはいかない。
戦っていた相手といつしか味方同士? 本末転倒も甚だしい。
一方で、ISを食い止めたいという思いでは、シーア派のイランもアメリカも同じ側になる。しかし、
宿敵イランとアメリカが協力…。あり得ない…。
いや実はすでに協力、というか少なくともイラク国内ではお互いを見て見ぬ振り、
邪魔だてはしないということが、始まっているという(イラク国内には以前から
イランの革命防衛隊がいてシーア派民兵を助けている)。
イランとアメリカの歴史的関係改善の芽かもしれない。
ありえない?
大統領就任後、イスラム世界との宥和的姿勢をアピール、核なき世界を提唱してノーベル平和賞までもらったのだ。
何か歴史的な大きなことをやってみろと言いたい。
イスラエルの核兵器を白日の元に晒し、イランの核開発を「平和利用」に限るとか。
中東非核化とか。

やるべきことはいろいろ

まずは外交と人道援助

<武器を手に戦うのか、それとも何もせずにみすみすISの伸長を許すのか>では、
ジョージ・ブッシュの突きつけた二者択一と同じだ。
実は、何もしない、というより、やるべきことは外交などたくさんある。

まずはシリアの殺戮と破壊を止めることだ。独裁者はしぶとかった。内戦でのアサド政権追い落としはとりあえずあきらめ、停戦だ。とにかく戦闘を止めることが緊急の課題。そこからISの伸長を抑える突破口も見つかる。シリアの内戦からISは勢力を増してきたのだから。

「空爆拡大強化」「反政府勢力に訓練と武器」では解決しない。状況を悪くするばかりである。


 

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